糖尿病

糖尿病とは

糖尿病

血液中にはブドウ糖といわれる糖成分が含まれていて、食事で摂取した炭水化物(お米やパン等)などから作られます。その血液中のブドウ糖の濃度のことを血糖値といいます。
糖尿病はインスリンの働きが不充分なことで血糖値が増えてしまう病気ですが、症状は目立たないことが多いが故に、生命に関わる重篤な合併症を発症することもあります。厚労省の実態調査によると、糖尿病の可能性がある人は1,370万人程度(内、糖尿病有病者は690万人程度)と推計されていて年々増加傾向にあります。
インスリンは膵臓のランゲルハンス島β細胞という体内の臓器から生成されるホルモンで、血糖値を一定の濃度に調節する働きがあるので糖尿病との因果関係が大いにあります。
血糖値が高いまま放置していると、血管の損傷が進行して、動脈硬化による心筋梗塞や脳梗塞、網膜症や白内障などの視力低下、腎症や腎不全などの腎臓病、手足の痺れなどの神経障害や足の潰瘍・壊死など、様々で重篤な合併症(慢性合併症)を引き起こすことが知られています。さらに血糖値の著しい上昇は、急性合併症といわれる昏睡状態などを引き起こすこともあります。

糖尿病による主な合併症

1糖尿病の三大合併症

1)糖尿病性神経障害

神経におこる障害で合併症としては最も多いです。感覚神経や運動神経の障害、自律神経の障害などが現われます。血糖値が高い状態が続くと血管が損傷するだけではなく、全身の神経自体の性質が変化して働きを悪くさせてしまいます。特に足先や足裏に症状が起こりやすく、痺れ・冷え・つり(こむら返り)などが現われます。足の症状が進行するとウィルス感染や細菌感染などの感染リスクが高くなり、潰瘍形成や壊疽(足が腐ること)の原因となります。

2)糖尿病性網膜症

目の奥にある網膜の血管に障害がおこることで、視力低下・かすみ目・眩しさなどの症状が現われます。放置していると眼底出血や網膜剝離、失明などの危険性があり、国内では年間3,000人程度の方が糖尿病性網膜症で失明しています。

3)糖尿病性腎症

糖尿病により腎臓の糸球体といわれる濾過装置に障害がおこることで、腎臓の機能が低下します。進行すると慢性腎臓病の発症を引き起こすことがあり、腎不全による人工透析が必要になることもあります。足の浮腫み・貧血・慢性的な倦怠感・血圧上昇などの症状が現われます。

2脳卒中や脳梗塞

糖尿病が原因で、脳内の血管に動脈硬化が進行することがあります。動脈硬化により血管自体が脆くなりやすく、血管が閉塞したり破れたりすることで脳細胞が壊死して、重篤な脳卒中や脳梗塞などの合併症を引き起こします。緊急性の高い病気で、適切な治療を受けないと後遺症や死亡の危険性があります。手足の痺れや麻痺・呂律困難・失語・視野の一部欠損・体のバランス失調などの症状が現われます。

3狭心症や心筋梗塞

糖尿病が原因で、心臓の血管に動脈硬化が進行することがあります。心臓には冠動脈といわれる、正常に心臓を作動させるための大切な細い血管があります。動脈硬化が進行すると、その血管自体が脆くなりやすく、冠動脈が狭窄や閉塞をおこすことで心筋細胞が壊死して、重篤な狭心症や心筋梗塞などの合併症を引き起こします。発症した場合は生命の危険性があるので、緊急性が高く適切な治療が必要となります。胸痛・胸部違和感・胸部圧迫感・背部痛などの様々な症状が現われます。

糖尿病の種類

糖尿病は発症原因によって大きく4種類に分類されます。

11型糖尿病

膵臓のランゲルハンス島β細胞が自己免疫反応(遺伝、ウィルス感染等)などで破壊されて、インスリン分泌が極度に低下することで血糖値が高くなる病気です。小児期に発症することが多く、糖尿病全体の5%程度といわれています。生涯継続して体外からインスリンを補充する必要性がありインスリン注射薬による薬物療法が行われます。
体重減少、疲労感、多飲、多尿、口腔の渇きなどが主な症状です。

1型糖尿病のランゲルハンス島β細胞の破壊進行度による分類

22型糖尿病

運動不足や肥満、高脂肪食の過剰摂取などの環境因子とインスリン抵抗性やインスリン分泌量低下に繋がる様々な遺伝因子が合わさることでインスリンの働きが不充分になり、血糖値が高くなる病気です。40歳以上の方に発症することが多く、糖尿病全体の95%程度といわれ、一番多い糖尿病のタイプです。
治療には罹患状態に合わせて飲み薬やインスリン注射薬を処方します。
さらに運動や食事など生活習慣の見直しをして血糖値をコントロールする必要性もあります。
体重減少、疲労感、多飲、多尿、口腔や目の渇き、手足感覚の鈍さなどが主な症状です。

3妊娠糖尿病

妊娠を契機に初めて見つかる糖代謝異常で、糖尿病とまでは診断されない高血糖状態を表します。妊娠することで胎盤や脂肪組織からインスリンの効果を抑制するホルモンやタンパク質が分泌されるために高血糖状態になることがあります。さらに糖分はお腹の赤ちゃんの栄養分になるため、血糖値のコントロールが悪いと成長に支障をきたすことがあります。多くの場合は出産後に血糖値は正常化しますが、将来的に2型糖尿病を発症するリスクが高いといわれています。症状は目立たないことが多いので、定期的に妊婦健診を受けることが必要です。35歳以上の妊婦や肥満、過去に早産・死産・奇形児出産・羊水過多症などの既往歴がある方は発症しやすいといわれています。
血糖値のコントロールには運動や食事の管理を徹底させることが一番大切なことですが、場合によっては赤ちゃんへの影響のないインスリン注射薬による薬物療法が行われます。
症状は目立たないことが多いので、定期的に妊婦健診を受けることが必要です。

4その他の特定機序や特定疾患による糖尿病

遺伝的な異常や糖尿病以外の疾患、薬剤の副作用などで発症する病気です。
血縁者に糖尿病有病者のいる方、膵臓癌や肝硬変などの他臓器疾患のある方、副腎皮質ステロイドなどの治療薬を服用している方などは高血糖状態になりやすいといわれています。原因究明のためにも医療機関への受診が必要です。

治療

糖尿病治療の基本は、『まずは食事と運動を中心に』がよく知られています。
治療内容としての重要なポイントは、血糖値のコントロールを目的とすることです。

食事療法

野菜

食事によって血糖値が高くなるので、食事に含まれる糖質の量や栄養のバランスなどを調整します。

(注意するポイント)
  1. 規則正しい生活を心がけて、間食や夜食は控える
  2. 腹八分目で、食事はゆっくりとよく噛む
  3. 野菜や海藻など食物繊維の豊富な食材から摂取
  4. 果物の食べ過ぎには注意する
  5. アルコール類の飲み過ぎには注意する(原則として禁酒)
  6. 味の濃い食材や塩分の摂り過ぎには注意する

運動療法

ジョギング

運動によって血液中の糖成分は消費されます。運動で体の筋肉量が増えることで、糖成分の代謝が良くなります。また、運動で体の脂肪分が減ることで血糖値を下げるインスリンの効果が良くなります。ストレスでも動脈硬化を進行させるといわれているので、運動などでストレスを発散することは効果的かと思われます。

(注意するポイント)
  1. ウォーキングや散歩など身近な運動から始める
  2. 無理せず体調や天気の良い時だけでも運動する
  3. 自身の体力に合わせた運動を継続する
    目安:一日30分以上の有酸素運動を週3回程度

薬物療法

インスリン注射

糖尿病の薬としては、飲み薬と注射薬の2種類があります。
飲み薬には、インスリンの分泌や効果を上げる薬や糖成分の分解・吸収を遅らせる薬、糖成分の排泄を促進させる薬など様々な飲み薬があります。
注射薬には、インスリンの分泌を促進させる注射薬やインスリンを体外から補充する注射薬があります。

糖尿病診断に有用性のある主な検査

血液検査、尿検査

(糖尿病の診断基準):血糖値(空腹時は126mg/dl以上,食後2時間は200mg/dl以上)
HbA1cは6.5%以上
尿検査は簡易試験紙法にて尿糖を判定

頸動脈超音波検査

首の左右の動脈(頸動脈)を観察することで、血管内の内中膜複合体(IMC)の肥厚具合やプラーク(コレステロールの塊)の付着による狭窄度、血流速度の評価など、動脈硬化の進行度が判断されます。脳卒中や脳梗塞の原因となる動脈硬化を判断するためによく選択される検査です。さらに頸動脈を観察することで全身の血管状態も推定・把握するのに役立つともいわれています。

ABI検査(足関節上腕血圧比)

上腕と足関節の血圧を測定して、動脈硬化の進行度や血管年齢を調べます。
様々な糖尿病合併症のリスク判定にも役立つ検査です。

心電図検査および心臓超音波検査

糖尿病による動脈硬化の影響で、心臓にも動脈硬化が進行することがあります。
狭心症や心筋梗塞など生命の危険性がある重篤な心臓疾患を引き起こす可能性があります。
心電図や心臓超音波の検査では、心臓内部の情報を画像で詳細に可視化できるので、狭心症や心筋梗塞をはじめ、動脈硬化による弁膜症の進行度などを判断するのにも役立ちます。