いびきを気にされている方へ

いびきについてお悩みの方は、実は非常に多くいらっしゃいます。
ご自身のいびきがひどくて、家族やパートナーから注意や指摘をされた経験のある方、旅行や出張などで他人と同じ部屋で寝ることを避けている方、あるいは他人に迷惑をかけないかと不安に思っている方も多いのではないでしょうか。
いびきは、睡眠中に無意識に起こる現象のため、自分では気づきにくいものです。そのため、多くの方が周囲からの指摘がない限り、自分がいびきをかいているという事実にすら気づかず、放置してしまうケースが少なくありません。
いびきと聞くと、「単に音がうるさいだけ」「家族に迷惑をかけるもの」といった印象を持たれることが多いかもしれません。しかし、実際にはいびきの背景に深刻な健康リスクが潜んでいることもあります。
特に、いびきが習慣化していたり、大きな音を伴ったりする場合には注意が必要です。放置していると、睡眠の質が大きく低下するだけでなく、生命に関わる重篤な合併症を引き起こすリスクもあるのです。
いびきが健康に及ぼす影響としてよく知られているのが、「睡眠時無呼吸症候群(SAS)」です。これは、眠っている間に呼吸が一時的に止まってしまう病気で、血液中の酸素濃度が低下し、心臓や脳に負担がかかります。SASを放置していると、高血圧や心疾患、脳梗塞、糖尿病などの生活習慣病と密接な関係があることが明らかになっています。
そのため、単なる「いびき」と軽視せず、適切な対策をとることが重要です。
いびきの原因

いびきとは、睡眠中に呼吸をする際、空気が通る「気道(きどう)」が狭くなり、空気の流れがスムーズにいかなくなることで、のどの周辺が振動し音が出る現象です。
この音が、いわゆる「いびき」として聞こえるのです。
私たちは日中、起きているときには、のどの筋肉がしっかりと緊張していて、気道をしっかりと開いた状態に保っています。ところが、眠っている間は身体全体がリラックス状態になるため、のどの筋肉も緩み、気道が狭くなりやすくなるのです。特に、仰向けで寝ていると重力の影響で舌が喉の奥に落ち込みやすく、それがさらに気道を塞いでしまい、音が大きくなることがあります。
つまり、いびきは「眠っているときに気道が狭くなること」によって起こるものであり、誰にでも起こり得る生理的な現象です。
ただし、いびきを引き起こす原因にはさまざまな背景があり、その要因が複数重なることで、頻度や音の大きさ、健康への影響が大きくなることがあります。
いびきを引き起こしやすくする代表的な原因
1.睡眠中の筋肉の弛緩(しかん)
就寝時には、全身の筋肉がリラックスした状態になります。のど(咽頭周囲)の筋肉も例外ではなく、眠っている間に弛緩することで、気道の一部が狭くなったり、部分的に閉塞したりすることがあります。
特に深い眠り(レム睡眠)に入ると筋肉の緊張がさらに低下し、いびきが大きくなることがあります。
2.顎(あご)の形状と気道の構造
就日本人は顎が小さく、後退している人が多いといわれています。この骨格的な特徴は、気道のスペースを狭くする要因になります。
顎が小さいと、舌の位置が後ろに下がりやすく、眠っている間に舌が喉の奥に落ち込んでしまうことで、気道をさらに狭くし、いびきの原因になります。
また、歯並びや鼻の構造(たとえば鼻中隔湾曲症など)も、気道の通りやすさに関係しています。
そのため、先天的な顔の骨格の違いや、気道の構造に起因するケースも見られます。
3.睡眠薬や安定剤の服用
睡眠導入剤や精神安定剤などの薬は、眠気を誘導するだけでなく、筋肉を弛緩させる作用を持つものがあります。
こうした薬を服用すると、のどの筋肉がより緩みやすくなり、気道の閉塞が強まり、いびきをかきやすくなるのです。
とくに、薬の作用が強く出やすい方や、年齢とともに筋力が落ちている方は、薬の影響でいびきが悪化することがあります。
服用中のお薬がある方で、いびきが気になるようになった場合は、医師や薬剤師に相談することが大切です。
4.飲酒(アルコール摂取)
お酒を飲むと、全身の筋肉が弛緩しやすくなるため、のどの筋肉もゆるみやすくなります。
その結果、普段は気道が保たれている人でも、一時的にいびきをかくことがあります。
また、アルコールには呼吸を抑制する作用もあり、呼吸のリズムが不安定になることでいびきが悪化しやすいことが知られています。
「お酒を飲んだ日は必ずいびきをかいている」と感じている方は、飲酒といびきの関連性が高いと考えられます。
5.肥満
体重が増えると、首周りや喉の周辺にも脂肪が付きやすくなります。この脂肪が、気道を圧迫しやすくなる原因となります。
とくに、首が太い・あご周りが丸いという方は、気道が狭くなりやすく、いびきをかきやすくなる傾向にあります。
また、内臓脂肪が多いと呼吸機能そのものにも影響を与え、呼吸の際に胸郭や横隔膜の動きが制限されることで、呼吸の質が低下することもいびきに関係します。
肥満によるいびきは、睡眠時無呼吸症候群を合併するリスクも高いため、注意が必要です。
性別によるいびきの傾向について
いびきは一般的に、男性の方が女性よりもかきやすいとされています。
国内の報告では、男性の約2割、女性の約1割が日常的にいびきをかいているとされており、男性の方が約2倍多いという統計があります。
この性差には、体格や生理的な構造の違いが関係しています。男性は女性に比べて、気道(空気の通り道)が長く、舌も大きい傾向にあるため、就寝中に気道が狭くなりやすい構造になっています。これがいびきを引き起こす要因のひとつです。
一方で、女性にもいびきのリスクは存在します。特に女性の場合、体内で分泌されている「プロゲステロン」という女性ホルモンが、いびきを抑える役割を果たしています。プロゲステロンは、頸部(のど周辺)の上気道の筋肉の活動を活発に保つ働きがあり、睡眠中も気道が閉塞しにくくなっているのです。
しかし、更年期や閉経を迎えると、このプロゲステロンの分泌が減少していきます。これによって、今まで気道を支えていた筋肉の働きが弱まり、いびきをかきやすくなるという変化が起こります。
そのため、若いころにはいびきがなかった女性でも、年齢とともにいびきが目立つようになることがあるのです。
このように、いびきは単に男性特有の問題ではなく、年齢や体格、ホルモンの変化などさまざまな要因で男女ともに起こり得る問題です。
また、肥満や加齢、アルコールの摂取、睡眠時の姿勢なども、いびきを悪化させる要因として知られています。
いびきを症状とする主な疾患
①睡眠時無呼吸症候群(SAS:SleepApneaSyndrome)
睡眠時無呼吸症候群とは、眠っている間に何度も呼吸が止まる病気で、いびきをかく方の中でも特に注意が必要な疾患です。
具体的には、就寝中に10秒以上呼吸が止まる「無呼吸」が、1時間あたり5回以上起こる場合、この病気が疑われます。
この病気の特徴は、呼吸が止まる直前や止まっている最中に非常に強いいびきをかくことが多く、その音が突然止まり、しばらくしてから大きないびきや呼吸音とともに再開する、といったパターンが繰り返されることです。
無呼吸が頻発すると、就寝中に体が酸素不足の状態(低酸素状態)に陥り、脳が危機を察知して何度も覚醒を促します。このため、熟睡できず、睡眠の質が大幅に低下します。
その結果、以下のような症状が日中にも現れます
- 強い眠気
- 倦怠感(からだのだるさ)
- 集中力の低下
- 起床時の頭痛
とくに日中の眠気によって、仕事中のミスや居眠り運転などの重大事故につながるリスクがあり、社会的な信用や生活の質を大きく損なう恐れがあります。
さらに、無呼吸によって体に酸素が十分に行き渡らなくなると、自律神経が過剰に働くようになり、心臓や血管に大きな負担がかかります。そのため、以下のような重篤な合併症を引き起こすこともあります
- 高血圧
- 狭心症・心筋梗塞(心臓の血管の病気)
- 心不全(心臓のポンプ機能の低下)
- 脳卒中(脳梗塞・脳出血)
いびきを長く放置している方は、「寝ている間に呼吸が止まっていないか」「起きても疲れが取れていないか」など、日常生活の変化にも注意を払い、早期の検査・診断を受けることが重要です。
②甲状腺機能低下症(橋本病など)
甲状腺機能低下症とは、甲状腺ホルモンの分泌が不十分になり、体全体の代謝が低下してしまう病気です。もっとも代表的な病気に橋本病があり、自己免疫の異常によって甲状腺の働きが徐々に衰えていきます。
甲状腺ホルモンが不足すると、全身の筋肉の活動が鈍くなり、気道を支えている筋肉(上気道筋群)も弛緩しやすくなるため、就寝中に気道が狭くなっていびきをかくようになります。
さらに、舌がむくみ(浮腫)やすくなって肥大化することで、気道の閉塞が進み、いびきの音が大きくなったり、無呼吸が起きやすくなったりします。
甲状腺機能低下症では、いびき以外にも以下のような症状が見られます
- 全身や顔のむくみ(浮腫)
- 体重の増加
- 無月経や月経不順、排卵障害
- 記憶力や集中力の低下
- 脈が遅くなる(徐脈)
- 寒がり・皮膚の乾燥
その他の体調不良が続く、といった場合は、他の病気の可能性も視野に入れた医療機関の受診も検討しても良いかもしれません。
いびきの予防方法
いびきは、単なる睡眠時の音の問題にとどまらず、睡眠の質を下げたり、健康を脅かす疾患のサインであったりすることがあります。
そのため、いびきの予防は、質の高い睡眠を確保し、生活習慣病や重大な合併症を防ぐためにも非常に重要です。
ここでは、いびきを予防・軽減するために取り組みたい具体的な方法を5つに分けてご紹介します。
①生活習慣の改善
いびきの最も大きな原因の一つが肥満です。特に首回りに脂肪がつくと、就寝時に気道を圧迫しやすくなり、空気の通り道が狭くなることでいびきを引き起こします。
そのため、いびきの予防には体重の適正化が非常に効果的です。
食生活を見直すことで、肥満を解消しやすくなります。バランスの取れた食事を心がけましょう。
- 脂質や糖質の過剰摂取を控える(揚げ物やお菓子、甘いジュースなどは控えめに)
- ビタミンやミネラルを豊富に含む野菜を毎食取り入れる
- 良質なたんぱく質(魚、大豆、鶏むね肉など)を意識して摂取する
- 食物繊維(海藻・きのこ・豆類など)で腸内環境を整える
肥満を改善することで、首まわりの脂肪が減少し、気道の通りが良くなるため、いびきの軽減が期待できます。
②運動習慣の改善
運動は肥満の予防・改善に役立つだけでなく、筋力の維持や呼吸機能の強化、代謝の向上にもつながり、いびきの予防に効果的です。
特におすすめなのが、有酸素運動です。酸素を取り込みながら継続的に体を動かすことで、脂肪燃焼効果が高まり、睡眠の質向上にもつながります。
有酸素運動の例
- ウォーキング
- 軽いジョギング
- サイクリング
- ラジオ体操
- ゆったりした水泳
無理のない範囲で、1日30分程度の中強度の運動(軽く汗ばむ程度)を目安に取り組むとよいでしょう。
重要なのは、運動の種類よりも「継続すること」です。日常生活の中に取り入れられる方法で、無理なく続けていくことが、いびきの予防にもつながります。
③飲酒や喫煙を止める
飲酒の影響
アルコールには筋肉を緩める作用があり、のどや舌の筋肉が弛緩しやすくなります。その結果、気道が塞がれやすくなり、いびきをかきやすくなるのです。
特に就寝直前の飲酒は悪影響が大きく、いびきだけでなく睡眠の質そのものを下げてしまいます。
また、アルコールの利尿作用により、夜間のトイレ回数が増えて中途覚醒しやすくなり、睡眠が浅くなる原因にもなります。
そのため、節酒または禁酒を心がけることが大切です。
喫煙の影響
タバコに含まれる有害物質は、のどや鼻の粘膜に炎症を引き起こし、腫れを生じさせることで、気道を狭くします。
その結果、呼吸がしにくくなり、いびきを引き起こすリスクが高くなります。
さらに、喫煙者は睡眠時無呼吸症候群(SAS)を発症するリスクも高いとされており、いびきだけでなく様々な生活習慣病のリスクも伴います。
健康のためにも、禁煙・節酒は強く推奨される予防法です。
④睡眠方法の改善
睡眠時の姿勢や環境を見直すことも、いびきを予防するために非常に効果的です。
横向き寝が効果的
仰向けで寝ると舌が重力によって喉の奥に落ち込み、気道を塞ぎやすくなります。
これに対して、横向きで寝ることで舌が気道を塞ぎにくくなり、呼吸がスムーズになるため、いびきが出にくくなります。
左右どちらでも構いませんが、寝返りを打ちやすい環境を整えることも重要です。
鼻呼吸を意識する
湿度の低い乾燥した部屋では、鼻づまりが起こりやすくなり、口呼吸に頼るようになります。
口呼吸は下顎が開きやすく、舌が喉の奥に落ちてしまうため、いびきの原因になります。
そのため、
- 就寝前は部屋の湿度を適度に保つ(加湿器の使用など)
- 鼻づまりがある場合は市販の点鼻薬などでケア
- 日中から鼻呼吸を意識し、口を閉じる癖をつける
といった工夫を行うことで、自然といびきを予防することができます。
⑤その他の改善
枕の高さや硬さの見直し
枕は、首の角度や気道の開き具合に影響を与える重要な寝具です。
高すぎる枕は首が前に倒れて気道が狭まり、低すぎる枕も舌が喉に落ちやすくなります。
ご自身の首の長さ、寝姿勢、肩幅などに合った高さ・硬さの枕を選ぶことが大切です。
補助器具の活用
- 鼻腔拡張テープ鼻の通りを良くして鼻呼吸を促す
- 口閉じテープ就寝中の口呼吸を防ぎ、舌の落ち込みを防止
- マウスピース(スリープスプリント)歯科医院で作製することで、下顎を前に出し、気道を確保する働きがあります。特に睡眠時無呼吸症候群の治療にも使用されることがあります。
これらの補助器具は、医師や歯科医の指導のもと使用することで、より安全かつ効果的にいびきを軽減することができます。
「ただのいびき」と軽視せず、慢性的ないびきや、日中の眠気・無呼吸の疑いがある場合には、医療機関での相談をおすすめします。
いびきの原因を正しく理解し、適切な対処をすることで、質の高い睡眠と健康的な生活を取り戻すことができます。