- 胃食道逆流症(GERD)とは
- 胃食道逆流症(GERD)の症状
- 胃食道逆流症(GERD)の原因
- 胃食道逆流症(GERD)で起こりうる合併症
- 胃食道逆流症(GERD)の診断
- 胃食道逆流症(GERD)の治療
- 慢性的な胸やけ・呑酸でお悩みの方へ
胃食道逆流症(GERD)とは
胃食道逆流症(GERD:Gastro-Esophageal Reflux Disease)とは、本来は胃の中にあるはずの胃酸や胃の内容物が食道へ逆流し、胸やけ・呑酸(どんさん)といった不快な症状や、食道粘膜の炎症を引き起こす病気のことをいいます。
近年の研究では、胃酸だけが原因ではなく、胆汁などのアルカリ性の液体や空気の逆流、食道の知覚過敏など、さまざまな要因が関わっていることがわかってきました。
代表的な症状は、胸やけ・呑酸(酸っぱいものがこみ上げる感覚)・みぞおちの痛み・喉の違和感・吐き気などで、これらをまとめて「胃酸逆流症状」と呼びます。
GERDは大きく2つのタイプに分けられます
逆流性食道炎(RE:Reflux Esophagitis)
胃カメラ(内視鏡)で食道と胃のつなぎ目(食道胃接合部)を観察したときに、赤み(発赤)・ただれ(びらん)・潰瘍といった粘膜の傷が確認できるタイプです。胃酸の逆流により、食道の粘膜が物理的にダメージを受けている状態と言えます。
非びらん性胃食道逆流症(NERD:Non-Erosive Reflux Disease)
胸やけなどの症状はあるのに、胃カメラで見ても食道に粘膜の傷が見つからないタイプです。日本のGERD患者さんの 約60〜70% はこのNERDに該当するとされており、決して「軽症」というわけではなく、独自の病態を持つ疾患として近年注目されています。
GERD = 逆流性食道炎(RE)+ 非びらん性胃食道逆流症(NERD)
かつては「逆流性食道炎」という言葉が広く使われていましたが、上記のように、食道に傷ができないタイプ(NERD)の方が日本では多いことがわかってきたため、現在ではこの両方を含む「胃食道逆流症(GERD)」という呼び方が一般的になっています。
胃食道逆流症(GERD)の症状
GERDの症状は、大きく「定型的症状(食道の症状)」と「非定型的症状(食道以外の症状)」に分けられます。
定型的症状(食道に関係する症状)
最も典型的なのは、胸やけ(みぞおちから胸の中央にかけて、ヒリヒリ・チリチリと焼けるような感覚) と、呑酸(酸っぱい胃液が喉や口の中までこみ上げてくる感覚) です。そのほか、みぞおちの痛み、お腹の張り、食後の胃もたれなども見られます。
これらの症状は、食べすぎ・早食い・脂っこい食事・飲酒のあとに悪化しやすく、前かがみの姿勢、強い咳、ベルトやガードルなどでお腹を締めつけたときにも強く出ることがあります。一方で、水を飲むと一時的に和らぐこともあります。
非定型的症状(食道以外にあらわれる症状)
胃酸が食道の上方、つまり喉や気管の方まで上がってくると、消化器以外の部位にも影響が出ます。
呼吸器に関連するものとしては、慢性的な咳、気管支喘息のような発作、誤嚥性肺炎など。耳・鼻・喉の症状としては、喉の違和感、痛み、飲み込みにくさ(嚥下障害)、声のかすれ(嗄声)などがあります。
また、心臓の病気ではないにもかかわらず、胸や背中に痛みを感じる「非心臓性胸痛」もGERDによって起こることがあります。
その他、夜間の逆流による睡眠障害、睡眠時無呼吸症候群との関連も指摘されています。
「胸やけ」というわかりやすい症状以外にも、こうした幅広い症状があることを知っておくと、思わぬ不調の原因に早く気づけるかもしれません。
胃食道逆流症(GERD)の原因
胃と食道は、横隔膜を境に分かれており、その境目(噴門部)には下部食道括約筋という輪っか状の筋肉があります。普段、この筋肉はしっかり閉じていて、胃の内容物が食道に逆流しないように働いています(胃食道逆流防止機構)。健康な状態であれば、たとえ逆立ちをしても胃の中身は食道に戻らない仕組みになっています。
ところが、何らかの原因でこの下部食道括約筋がゆるむと、胃酸や胃の内容物が食道へ逆流してしまいます。これがGERDの根本的な発症メカニズムです。
下部食道括約筋がゆるむ要因として、以下のような生活習慣・体質が挙げられます。
加齢、肥満、暴飲暴食、寝る直前の食事、お腹を締めつける衣類、長時間の前かがみ姿勢、喫煙、過度な飲酒、ストレスなど。さらに前述のとおり、食道裂孔ヘルニアも大きな要因の一つです。
現代社会のストレス過多や、欧米化した高脂肪食中心の食生活は、まさにGERDが増加している背景そのものといえるでしょう。
胃食道逆流症(GERD)で起こりうる合併症
GERDは「ただの胸やけ」と軽く考えがちですが、長期間放置すると次のような合併症を引き起こすことがあります。
逆流性食道炎
胃酸の逆流によって食道の粘膜に炎症が起こった状態。GERDの代表的な病態です。
食道潰瘍
炎症が進行し、食道の粘膜がえぐれて潰瘍ができることがあります。食べ物を飲み込むときの痛み(嚥下痛)が出ることがあります。
食道狭窄
慢性的な炎症により食道が瘢痕化し、内腔が狭くなる状態です。固形物が飲み込みにくくなる、つかえる感じが出るなどの症状が現れます。
バレット食道
胃酸の逆流が長期間続くと、食道下部の粘膜が、胃の粘膜に似た円柱上皮に置き換わってしまうことがあります。これがバレット食道です。日本人のバレット食道の99%は3cm未満の短いタイプ(SSBE)で、発がん率は年0.007〜0.04%程度と稀ですが、3cm以上の長いタイプ(LSBE)では年率約1.2%と無視できないリスクとされています。定期的な内視鏡検査でのフォローが推奨されます。
食道腺がん
バレット食道を背景に発生する悪性腫瘍です。日本人の食道がんは扁平上皮がんが多いものの、近年では食生活の欧米化に伴いバレット食道由来の腺がんが徐々に増加しています。
食道以外の合併症
睡眠障害、貧血や慢性的な出血、喘息様の咳、声のかすれなどがあります。
胃食道逆流症(GERD)の診断
GERDの診断は、ひとつの検査だけで決まるものではなく、症状の詳細・内視鏡所見・治療への反応などを総合して判断します。
問診
まずは詳しい問診から始まります。「胸やけはいつからあるか」「食後に強くなるか」「夜間に咳で目覚めることはあるか」など、症状の出方や悪化する状況を丁寧に聞き取ります。消化器を専門とする医師であれば、問診だけで診断の見当がつくことも少なくありません。とはいえ、より確実にするために以下の検査を組み合わせます。
胃カメラ(上部消化管内視鏡検査)
食道と胃のつなぎ目を直接観察し、粘膜のただれ(びらん)や潰瘍の有無、食道裂孔ヘルニアの程度を確認します。また、萎縮性胃炎(慢性胃炎)の有無を確認できる点で胃カメラはとても有用です。
その他の検査
GERDと似た症状を起こす別の病気を除外するため、必要に応じて次のような検査を行います。
また、「胃酸を抑える薬を試して、症状が改善するか観察する」というアプローチも、診断上とても重要です。実際の臨床では、検査以上に経過を見ることが診断の決め手になることも多くあります。
胃食道逆流症(GERD)の治療
GERDの治療は、薬物療法と生活習慣の見直しが二本柱です。症状の強さや、薬の効き方によって治療内容を調整していきます。
薬による治療(薬物療法)
第一選択は、胃酸の分泌を抑える薬です。
プロトンポンプ阻害薬(PPI) は、胃酸の分泌を強力に抑える薬で、長年GERD治療の中心を担ってきました。カリウムイオン競合型アシッドブロッカー(P-CAB/ピーキャブ) は、PPIと同様に酸分泌を抑える薬ですが、効果発現が早く、効果も安定していることから、近年では特に重症の逆流性食道炎で第一選択として推奨される場面が増えています(ボノプラザンなど)。ヒスタミンH2受容体拮抗薬(H2ブロッカー) は作用がやや穏やかですが、補助的に使われることがあります。
そのほか、症状に応じて、酸を中和する制酸剤や、胃の動きを助ける消化管運動機能改善薬、漢方薬などを併用することもあります。
日常生活と食事のアドバイス
薬と並んで、それ以上に大切なのが生活習慣の見直しです。以下のような対策が、GERDの症状改善・再発予防に役立ちます。
体重の管理(特にお腹まわりの脂肪を減らすこと)、寝るときに頭を少し高くする(左側を下にして寝るのも有効)、姿勢を整えて前かがみを避ける──これだけでも逆流のリスクは下がります。
食事面では、食べすぎないこと、よく噛んでゆっくり食べること、脂っこい食事や甘いものを控えめにすることが基本です。アルコール、チョコレート、炭酸飲料、コーヒー、トマト、ミント、香辛料などは症状を悪化させやすい食品とされています。一方で、牛乳は症状を一時的に和らげる場合があります。
そして特に重要なのが「寝る前は何も食べない」というルール。食後すぐに横になると、重力の助けを借りられず、胃の内容物が食道に戻りやすくなります。食後すぐの激しい運動(特に腹筋運動)も避けたほうがよいですが、食事の合間に行う適度な運動はむしろ逆流予防に有効です。
最後に、自分の症状が悪化しやすい状況をパターンとして把握し、できるだけそれを避けるという工夫もとても効果的です。ストレス過多、特定の場面、特定の食品など、人によって引き金は違います。
慢性的な胸やけ・呑酸でお悩みの方へ
胸やけや呑酸が続いている、咳や喉の違和感が長引いている、夜中に胃酸が上がってきて目が覚める、こうした症状は、放っておかず、一度消化器内科で相談されることをおすすめします。
GERDは、適切な診断と治療で多くの方がしっかり改善できる病気です。ただし、症状が似ている食道がんやその他の疾患を見逃さないためにも、まずは胃カメラで一度しっかり調べておくことが安心につながります。
気になる症状がある方は、どうぞお気軽にご相談ください。
大川医院院長 大川 修(おおかわ おさむ)
- 日本内科学会認定内科医・総合内科専門医
- 日本消化器病学会認定 消化器病専門医
- 日本肝臓学会認定 肝臓専門医
- 日本消化器内視鏡学会認定 消化器内視鏡専門医
- 日本医師会認定 産業医


